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山口地方裁判所 昭和51年(わ)150号 判決 1980年6月13日

本店所在地

山口県下松市大字平田三七〇番地の一

株式会社 三広商会

(右代表者代表取締役 李康男)

国籍

韓国

住居

山口県下松市大字平田三七〇番地の一

会社役員

李半洙

一九二八年二月二一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官堀山美智雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社三広商会を罰金六〇〇万円に、被告人李半洙を懲役五月にそれぞれ処する。

被告人李半洙に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人らの負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社三広商会は、肩書地に本店を置き、自動車の解体並びにその販売等を目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人李半洙は、昭和五二年五月三一日まで被告人会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人李は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、同社の経理を担当していた郭秀子と共謀して、売上の一部を除外して簿外預金を蓄積する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四七年一〇月一日から同四八年九月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が七〇、一七九、二〇八円(別紙(一)修正損益計算書及び(二)脱税額計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月二九日、山口県徳山市今宿町二丁目三五番地所在の所轄徳山税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三七、二三九、四三五円で、これに対する法人税額が一三、三九〇、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度の正規の法人税額二五、四九五、六〇〇円(別紙(二)脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一二、一〇五、五〇〇円を免れ、

第二  昭和四八年一〇月一日から同四九年九月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が八九、四六五、一七三円(別紙(三)修正損益計算書及び別紙(四)脱税額計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月二九日、前記徳山税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六四、〇四〇、四五七円で、これに対する法人税額が二四、八四四、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度の正規の法人税額三五、〇一四、四〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)と右申告額との差額一〇、一七〇、〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  登記官福田鉄雄作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本

一  被告人李半洙の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書六通

一  被告人李半洙に対する大蔵事務官の質問てん末書一三通

一  第五回公判調書中の証人金京子、同棟居節子の、第六回公判調書中の郭秀子の、第一四回公判調書中の証人飯田喜一の各供述部分(被告人会社の関係では同意書面として取調べたもの)

一  証人李康男、同李秋吉、同棟居節子、同郭秀子、同飯田喜一に対する受命裁判官の尋問調書(被告人会社の関係では同意書面として取調べたもの)

一  郭秀子(三通)、稲田英俊(二通)、高尾学、新谷昭三、李根守、瀬川清士、小出博司、李秋吉、李敏文、李康男、向江鉄、鵜月二郎の検察官に対する各供述調書

一  稲田英俊、高尾学、新谷昭三、李根守に対する大蔵事務官の各質問てん末書

一  信用組合山口商銀徳山支店支店長安田栄作、三菱銀行徳山支店支店長増尾輝久、西日本相互銀行徳山支店支店長江頭勝美、廣島銀行下松支店支店長梅津庄三(二通)、山口相互銀行取締役本店営業部長家永正明、田所眞喜雄、廣島銀行徳山支店支店長福田寛各作成の証明書

一  徳山税務署長作成の広島国税局長宛の書面(徳法第六号昭和五一年三月二六日付)

一  検察官作成の捜査関係事項照会書(写)

一  廣島銀行庄原支店支店長吉村悟作成の照会に対する回答書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  大蔵事務官向井英夫、同蔵田武(一〇通)各作成の調査事績報告書

一  大蔵事務官杉ノ原剛、同蔵田武各作成の現金有価証券等現在高検査てん末書

一  大蔵事務官蔵田武作成の「第二次収集分各人筆跡」と題する書面

一  鑑定人吉田公一、飯田喜一各作成の鑑定書

一  押収してある総勘定元帳四綴(昭和五一年押第七一号の1ないし4)、補助簿二綴(同号の5、6)、仕入帳四綴(同号の7ないし10)、売掛帳六綴(同号の11ないし16)、金銭出納帳三冊(同号の17ないし19)、銀行勘定帳二冊(同号の20、21)、未払金帳二冊(同号の22、23)、給料台帳一冊(同号の24)、決算関係資料綴一綴(同号の25)、売上伝票一綴(同号の26)、振替伝票一綴(同号の27)、仕入仕切書七冊(同号の28、29)、仕入領収書綴三綴(同号の30ないし32)、領収書綴一綴(同号の33)、法人税調査事績資料綴一綴(同号の34)、法人税決議書一綴(同号の35)、領収書三枚(同号の36ないし38)、元帳一綴(同号の39)、領収書(合計二〇三枚)二綴(同号の40)、判取帳一冊(同号の41)、請求書(一五通)、領収書(二三枚)二綴(同号の42)、印鑑票三枚(同号の45、46、48)、印鑑紙一枚(同号の49)

(売上除外額を縮少認定した理由)

一  検察官は、別紙(五)(ただし54ないし57を除く。)及び同(六)の各領収書並びに別紙(五)の54ないし57の判取帳の各記載はいずれも被告人会社が大同商会に対する真実の売上額を隠ぺいするため、仮空の名称で発行ないし記載したものであるから、すべて犯則益金として計上すべきであると主張するのに対し、弁護人は、別紙(五)のうち、1、4、5、6、7、9、11、12、14、16、20、21、22、23、24、25、27、28、30、31、32、33、34、35、37、40、41、50、52、53、60、62、63、64、65、の各領収書と、54、55の判取帳の各記載を、また別紙(六)のうち、4、7、8、9、13、14、15、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27の各領収書を被告人会社のものではない旨主張し、争っている。

二  当裁判所は、証拠を仔細に検討した結果、別紙(五)のうち、7、12、14、20、22、24、28、34、41、62、63、65の各領収書と55の判取帳の記載並びに別紙(六)のうち、8、15、22、24、27の各領収書が被告人会社のものと認めることはできないとの結論に達したので、以下その理由を述べることとする。

(一)  別紙(五)の7、12、14、20、22、24、28、34、41、55並びに同(六)の8、15、24、27について

右各領収書が、被告人会社の仮名のものであることをうかがわせる証拠として、山口県技術吏員佐々木寛、同金子勝成共同作成の鑑定検査結果報告書(以下、佐々木鑑定書という。)、第五回公判調書中の証人金京子の供述部分(以下金京子証言という。)が存在する。

(二)  そこで、右各証拠の信ぴょう性につき検討を加えることとする。

(1) まず、佐々木鑑定書についてみてみるに、同鑑定書は、一般の筆跡鑑定が同一の文字を比較対照して同一人の筆跡か否かの結論を導くものであるのに対し(前記飯田鑑定書参照)、異なる文字の間で同一人の筆跡か否かの比較対照を行い、しかも結果のみを記して、鑑定の経過、推論の過程等につき一切触れていないうえ(佐々木証言によっても解明されず、如何なる手法によったかさえ詳らかでない。)、飯田鑑定書の結果と対比しても、到底信用に値しない。したがつて、佐々木鑑定書を領収書と被告人会社とを結び付ける的確な証拠ということはできない。

(2) 金京子証言のうち、別紙(五)の55に関する供述をみてみるに、検察官の主尋問に対して

「問 これはだれの筆跡かわかりますか。

答 わかりません。

問 三広商会の人に書いてもらったかどうか、どうですか。

答 書いてもらったと思います。

問 どうしてそう思うんですか。

答 何となく覚えています。」と

応答しているほか、弁護人の反対尋問ないし裁判長の補充尋問に対しても終始あいまいであって、これのみをもって、右55の判取帳の記載が被告人会社の仮名によるものと即断することは到底できない。

同証言のうち、別紙(五)の7、12、14、20、22、28、34、41並びに同(六)の15に関する供述をみてみるに、いずれも被告人会社の郭秀子の筆跡である旨述べている。

しかし、第六回公判調書中の証人郭秀子の供述部分(以下郭秀子証言という。)によると、別紙(五)の7、12、20、22、28、34、41並びに同(六)の15についてはいずれも自己の筆跡でない旨また別紙(五)の14についてはわからない旨述べているうえ、同人の検察官に対する昭和五一年六月二六日付供述調書においても、別紙(五)の7について「私の字に似ております。」、また28について「私の字に似ているようで似ていないようです。」さらに別紙(六)の15について「棟居さんの字に似ております。」と述べ、その余については、「誰の字かわかりません。」と述べている。また、李康男の検察官に対する供述調書では、別紙(五)の7は「私の字に似ており」と、第五回公判調書中の証人棟居節子の供述部分では、別紙(六)の15は住所と名前は自分の字に似ているようであるが、はっきりわからない旨述べられている。

以上みたとおり、金京子証言は、他の関係各証拠と必ずしも一致しないうえ、同証言によると、別紙(五)、(六)の各領収書は大同商会に保管中の多数の領収書から、郭秀子、棟居節子らの筆跡と思われるものを被告人会社のものと考えて選び出して捜査官に提出したものの一部であること、そして、右選出作業がいわば同証人の直観によりなされたため、同証人自身別紙(五)、(六)の領収書中に被告人会社以外の領収書が含まれている可能性を肯定していることが認められるのであって、同証言中の「秀子の字と思う」とある部分のみによって、前記各領収書が被告人会社の仮名のものと断定することは到底できない。

なお、検察官は、別紙(六)の15につき、飯田鑑定書を援用しているけれども、同鑑定書及び前記飯田喜一尋問調書によると、結局資料不足であって確たる結論を得ることができないというのであり、15の領収書を被告人会社と結び付ける証拠とすることはできない。

(3) 別紙(六)の22について

右領収書が、被告人会社の仮名のものであることをうかがわせる証拠として、佐々木鑑定書、郭秀子の検察官に対する昭和五一年六月二六日付供述調書が存在する。

しかしながら、佐々木鑑定書が信ぴょう性を著しく欠くことは既に述べたとおりであるうえ、郭秀子証言によると「私の字ではない」となっているほか、金京子証言でも「わからない」となっており、また飯田鑑定書でも不明となっている。

したがって、郭秀子の右検察官に対する供述調書中の「私の字です」との供述記載のみを他の証拠よりも信用し得るとする合理的な理由はないので、右供述記載が22の領収書と被告人会社とを結び付ける決め手となる証拠であるとまではいい難い。

(三)  以上の次第で、前項(1)ないし(3)で述べた領収書及び判取張の記載は、被告人会社のものと認めることはできないので、売上除外額の算出にあたって減額計算を行った。

三  なお、判示第一の事業年度において、売上除外額即ち犯則益金に減算をみた結果、判示第二の事業年度における犯則損金として計上されている租税公課(未払事業税)も必然的に減額されることになるが、これは検察官の当初主張と同一の勘定科目中での前年度の所得金額の減少に伴い当然に算出され得る減少額にすぎず、何ら被告人の実質的防御に影響を及ぼすものとは考えられないので、訴因の変更を要しないものと解するのが相当である。

(法令の適用)

一  被告人会社

判示各事実 いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項、一六四条一項

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

訴訟費用 刑訴法一八一条一項本文

一  被告人李半洙

判示各事実 いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項

刑種の選択 いずれも懲役刑選択

併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第一の罪の刑に加重)

刑の執行猶予 刑法二五条一項

訴訟費用 刑訴法一八一条一項本文

昭和五五年五月二八日

(裁判長裁判官 中村行雄 裁判官佐々木茂美、同和田康則は転任につき署名押印ができない。裁判長裁判官 中村行雄)

別紙(一)

修正損益計算書

自昭和47年10月1日

至昭和48年9月30日

<省略>

別紙(二)

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

自昭和48年10月1日

至昭和49年9月30日

<省略>

別紙(四)

<省略>

別紙(五) 大同商会関係分売上除外計算書(1)

(1)

自昭和47年10月1日

至昭和48年9月30日

<省略>

大同商会関係分売上除外計算書(2)

(2)

自昭和47年10月1日

至昭和48年9月30日

<省略>

備考 左欄×印の分は、当裁判所が認定において被告人会社の売上とは認めなかったもの。

別紙(六) 大同商会関係分売上除外計算書

自昭和48年10月1日

至昭和49年9月30日

<省略>

備考 左欄×印の分は、当裁判所が認定において被告人会社の売上とは認めなかったもの。

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